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機会の不平等か?


岩波書店:就職応募条件に「社員紹介必要」
 岩波書店(東京都)が2013年度の定期採用の応募資格について、「岩波書店著者の紹介状あるいは岩波書店社員の紹介があること」を条件(以下,“条件”)にしていることが3日、分かった。

 同社のホームページで公開されている。「縁故採用」ともとられる方法だが、同社は「応募条件であり、採用条件ではない」と反論。また「毎年採用は若干名なのに対し、応募は1000人に及ぶこともある。現在は、結果的に落とすための試験になっており、できるだけそれを避けるため」としている。

毎日新聞 2012年2月3日 11時33分(最終更新 2月3日 12時08分)

岩波も言っているように,応募条件であり,その中から採用を決めるのであり,縁故=ほぼ内定,というものとは違う。

機会の平等に違反していると“条件”を批判するのであれば,まずは4年制大学という条件が良いのか?という指摘も出来るだろう。

また,どんな大学であろうが,岩波書店で本を出版したことのある先生の一人か二人はいるだろう。そうした先生を見付けられること,そして,その先生に紹介状を書いてもらうこと,それぐらいは出版人を目指す人なら越えなければならない試練(というと言い過ぎかも知れないが,遅筆の作家から原稿をもらう事に比べたら楽ではないか?)と思えば,本当に採用される若干名に入るぐらいの人であれば,そのくらいは簡単であろう。

大体,ネットとマスコミが騒ぎすぎだろう,今まで岩波書店のHPなど一度も見たこと無い人とかも騒いでいるんじゃないかな〜,と思っていたら,こういった目立ちたがり政治家が出てきた。


縁故採用宣言で岩波書店調査へ 厚労省
 老舗出版社の岩波書店(東京)が2013年度定期採用で、事実上縁故採用に限ると「宣言」していることをめぐり、小宮山洋子厚生労働相は3日、閣議後の記者会見で「早急に事実関係を把握したい」と述べ、調査に乗り出す考えを明らかにした。
 東京労働局が近く同社から詳しい事情を聴き、今後の対応を検討するという。
 岩波書店はホームページで13年度の社員募集要項として「岩波書店(から出版した)著者の紹介状あるいは社員の紹介があること」を条件に掲げている。
 同社の就職人気は高く、例年、数人の採用に対し千人以上が応募する。

どんだけ,この国はレベルが低いんだ。

リアル30’s:働いてる? 識者に聞く 不条理感こそ生きづらさの実相--神戸女学院大名誉教授・内田樹さん
 ◇神戸女学院大名誉教授・内田樹さん(61)
 就職氷河期に直面した世代(30代)は社会の不条理を思い知らされたはず。頭が良く、性格も問題ない、教師からも評価された学生がなぜか就職できない。一方、思いがけない人が早々と内定を手に入れる。若者たちが一番苦しむのは、この採否の基準が明らかでないところ。努力の仕方が分からないのだ。
 だから、仮に正社員に採用されて働き始めても不安は続く。同じ職場の非正規労働者と比べても、能力にそれほどの差はないと実感している。「君の替えなんかいくらでもいるぞ」という上司に反論できず、どれほど労働条件が悪くなっても堂々と是正を求められない。そういう条件で働く若者に向かって「覇気がない」と言うのは気の毒だ。
 採否の基準を明らかにしない、格付けの根拠を示さないのは、労使間に権力の非対称性を作り出すための「仕掛け」。若者たちはおびえ、自信を失い、自分を「いくらでも替えのきく使い捨て可能な労働力だ」と信じ込まされた。彼らは、どれほど劣悪な雇用条件に対しても異議申し立てができない。
 日本の企業はこの30年間、子どもたちを「規格化」することを学校教育に強く求めてきた。缶詰や乾電池のように規格化することで、「英語ができて、ネットが使えて、一日15時間働けて、上司の査定におびえる若者」が量産された。企業は「能力は高いが賃金は安い労働者」を手に入れた。今の雇用環境は、官民一体で国策的に作り出されたものだと思う。
 規格化された労働者は連帯することが難しい。集団の連帯のためには「僕はこれができる、君はあれができる」というふうに能力がばらけていることが必要。それぞれが自分にない力を持っているから敬意を抱くことができる。でも、規格化され、似たような社会的能力を持つ者が集まっても集団のパフォーマンスは上がらない。
 経済のグローバル化は世界中で若い労働者の雇用を直撃している。遠い他国での国債の暴落や政変、自然災害で、突然自分の会社の売り上げが吹き飛び、クビが伝えられる。「なぜ?」と尋ねても誰も答えられない。個人の能力や努力とかかわりなく生活が崩壊する。その不条理感が現代の「生きづらさ」の実相ではないだろうか。個人的な努力で未来を切り開くことができないという無力感ほど、若者の心をむしばむものはない。
【聞き手・水戸健一、写真・川平愛】2012年1月17日
http://mainichi.jp/life/job/archive/news/2012/01/20120117mog00m100035000c.html

これは,たまたま見つけた内田さん記事。岩波を出した条件を“不条理”と取るかどうかは受け手の判断だが,内田さんの「採否の基準を明らかにしない、格付けの根拠を示さない」ということに対しては明確に「紹介状書いてもらってこい!」といっているので,非常に明快だと思う。無ければ取れば良い,ゲームに例えれば,鍵を持ってこないと次の部屋に入れないようなものだ。なら,鍵をさがしにいくでしょ,プレイヤー自力で。

ただ,最近のソーシャルゲームは,その鍵を金で買うじゃないですか,智恵じゃなくて金(アイテム課金制=>錬金術だから詐欺みたいなもんだと,個人的には思っている,ちょっと脱線)
岩波は新聞と違って,大きなスポンサーが付きにくい(出稿する媒体,露出がすくなすぎる)から,縁故採用がたくさん集まりすぎて困って,かつ営業と人事でいざこざが起きるということも無いだろう。

でも,岩波が探しているのはそういった人間力がある人材,コミュニケート能力の高い人材なのだ。まぎれもなく規格外の人材を求めているわけ。それを理解できなくて動揺する学生は通らないでしょう。

この問題は,応募のAかBに当てはまる人と岩波の問題。

僕も含め外野がどうのこうの言う問題じゃないんだけど,何より,お上がこの件で岩波に文句をいう筋違いなことだけは起きないように祈っている。

岩波書店,文句言われたら今年の採用を見送れば良い。もともと,人が足りなくて困ってるわけじゃないんだろうから。

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